大手メーカーのクライアントのご担当とご一緒に飲んでいた時です。私がSI社員をファーストネームで呼んだので、「呼び捨てですか」。続けて、「いいですね。呼び捨てにできて」とおっしゃるのです。
ご担当は、SIのように呼び合うことが好ましいと思っているらしく、うらやましそうです。SIでは当たり前というか、いつもそうですから、そんな風に言われることも無かったし、ちょっとビックリしました。何でも、その会社では社員同士がファーストネームで呼ぶのはご法度だそうで、特に、上司が部下に対してそうした場合、いわゆる「パワハラ」になるのだそうです。大きな会社ですから、会社の中で個人的な親しみを込めて呼び合う必要は無く、仕事には必要ないといえばそうかもしれませんが、少し杓子定規ではないかと思いました。
考えてみると、大会社の中では色々な規定があります。大概その目的は、社員の生産性が上がるよう、職場環境をよくする為のものであるといえますが、逆に、誤解や齟齬を無くす為の規制もあります。今回の話はそのような感じでしょうか。
社員同士が、友好的で好ましい関係を築いて、より仕事の効率が上がればよいのですが、逆に親し過ぎて、仕事をそっちのけにしたらとか、強制的に親しくしようとする上司がいたら大変だ、そんなことがないように会社として管理する必要があるのでしょう。しかし、あまりに「羹に懲りて膾を吹く」ような規制が増えてはいませんでしょうか。そして、そのようなことの積み重ねで会社が弱くなって行くように思うのです。
大体、親しみを込めて呼び捨てにするのがダメなら、どのように親しみを表現するのでしょうか。逆に、いつも丁寧にさん付けで呼びながら、ひどい仕打ちをする者もいます。冷徹で卑怯なヤツは、言葉遣いだけは丁寧なことが多いものです。
言いたいのは、確かに会社の中は色々な人がいますので、その人間関係となるや、人の数が増えるほど複雑で大変なのは分かります。しかし、だからといってあれもダメ、これもダメ、会社が画一的に決めるのはおかしな話ではないでしょうか。
呼び捨てがダメで他人行儀になり、何でも会社の規定に測って仕事をするのでは、面白くはありませんし、個性的なアイデアや創造性などが醸成する訳がありません。
聞けば、会社の旅行はとうの昔に廃止になったそうで、それも若い社員が「旅行先でも上司にへコヘコするのがイヤ」、というのが理由だそうです。「お酌もイヤ」と言う女性社員の言い分も多かったようですが、社員旅行の目的の第一は、良好な人間関係を築くものではないでしょうか。もっと言えば、酔った上司に絡まれたくらいでは根を上げない、強いビジネスマンになる研修の場でもあった筈です。
プロの野球選手を見れば分かります。若手は先輩を立てますし、先輩は後輩を可愛がります。新人をさん付けするような選手は一人もいません。要は、実力主義の世界でも先輩後輩の分をわきまえ、そのような序列が伝統となって積み重なり、チームが強くなって行くのではないでしょうか。
呼び捨てにするのは軽蔑しているのではありません。そのほうがスムーズに仕事が進むと思うから、つまり潤滑油みたいなことなんです。
皆さん、私たちの周りに、そのような「人間関係潤滑油」が少なくなっていませんか。テレビや報道で、会社の中の些細なことが大問題や訴訟沙汰になってしまうのを見ていると、きっとそうなる前に何か解決策があったはずなのに、もったいないと思うのです。
いいじゃありませんか、呼び捨て。あれもダメ、これもダメで会社がダメにならないように、気楽に行きましょうよ。